マタハラNetダイバーシティ企業インタビュー 第1回「株式会社サイボウズ」~後編~
――会社の問題を解決すればマタハラも解決できる!?
子どもが小学生になるまで育児休暇がとれる!
中根 いませんが、一番長く取得したのは渡辺です。
渡辺 4年取得しました。2005年に社長が交代し、会社が大きく変わり始めた時期に妊娠しました。2006年の8月、産休に入る月に、妊娠判明時からとれる産休や育休6年の制度もできました。ちょうど先輩が7月に育休から復帰して、休みがとれる状況にもなりました。
私は、中学時代から子どもに関わる機会が多く、保育士の勉強をするなど子どもの発達や育成に強い関心がありました。
■復帰へのハードルは
――4年の育児休暇を取得してから復帰するときにハードルはありましたか? またそのときの気持ちはいかがでしょう?
渡辺 ハードルを高く感じていた時期もありましたが、いったん決めてしまえばハードルはなくなりました。ああ、久しぶりにグループウェアの世界に戻ってきたな、という感覚はありました。産休に入る前から使っていた業務システムも継続して使われていたので、さほど違和感なく復帰できました。それに、人が増えていました。
渡辺 離職率が高い時期に妊娠して離れたのですが、制度を整えた会社に変貌し、新しくクラウド事業を本格化する直前の時期で、部署も人が増えていたんです。以前は1、2人で担当した仕事が、3、4人のチームになり、仕事をシェアしやすくなっていました。
サイボウズの「変化・進化」を発信する仕事にも携わっているのですが、まさに変化を身をもって感じています。
■人手が足りない、復帰者が欲しい!
――4年近く期間があいてしまうと、現在の職場の人数で仕事がまわせるようになり、戻るにもポジションがないのが普通の企業では多いと思います。そういうことはありませんか?
中根 人手不足のため、「是非うちの部署に戻ってきてほしい」という場合がほとんどです。とはいえ、もちろん配属先は各部署や本人の希望を聞いた上で決めるので、必ずしも元の部署とは限りません。
渡辺 私の場合は、以前私の業務を引き継いだ人がちょうど転職するタイミングに復帰しました。確かに、仕事がうまく回っているチームに復帰できるかは、微妙ですね。
――普通の企業だと、産休のあいだ派遣社員や別の正社員を採用すると、その人がそこに根付いてしまって、元の人が戻れない場合がほとんどです。戻ってきてもどうせ時短だからいらないと考え、いまのフルタイムで働く人を優先しますよね。
中根 よくわかります。サイボウズは人手不足ということもあり、
復帰社員にも活躍してもらえるのかもしれませんね。
――人が増えているということは、業務もどんどん拡大しているということですか。
中根 そうです。
――成長が止まったり、減少したりすると……。
――成長し続けられるのは、サイボウズの精神があるからこそ、
と言えるのでしょうか。。
中根 そうですね。ワークスタイルの多様化を進めたおかげで、優秀な女性がエントリーしてくれます。当然、業務の拡大につながっていると思います。現在、日本国内で育休中の女性は、10人います。国内社員の人数は340人程度ですから、割合でいうと少なくはないかもしれませんね。
――人材が流出しない、それから優秀な人材が入ってくることが、
今のサイボウズさんの強みなのだと。
■無理解な人をどうするか
中根 マネジメント研修等で共有したり、都度出てくる問題に、人事と一緒に対応したりすることで個々のマネジャーのトレーニングにつながっているかと思います。何か具体的かつ喫緊の問題を感じているわけではありませんが、やらなければいけないなと思っていることはあります。
イクボスの話をお伺いして、サイボウズにも問題があるかもしれないと思い、産休前のメンバーに集まってもらったことがありました。率直な感想を求めて洗い出したところ、「むしろ気を遣われすぎ、妊娠しても別に物を運べるし、仕事もさほど支障はない」という反応で、現時点では問題はなさそうだと認識しています。
ただし、現在のこの状態を続けるためには、上司の理解の促進は常に必要だと考えています。妊活している人が、こころも金銭的にも、苦労を抱えていることをわかってあげられなかったり、知ってはいても、「また休むの?」とつい言ってしまうことがあるかもしれないので、そういう理解を促進するような情報提供の必要性等を感じています。
とはいえ、総じて妊娠している女性への理解はあるな、と思いますね。その理由のひとつに、マネージャーが30代後半ぐらいが多く、男性でも「目下育児中」という人が多いからというのもあるかもしれません。男性のマネージャーでも、保育園へ送るために10時出社、というメンバーもいます。
――マネージャーが若くて、育児に参加しているのは大きなポイントですね。普通の企業のマネージャーは、専業主婦を奥さんに持った、40代50代の方が多いですから。
中根 よくわかります。サイボウズは人手不足ということもあり、復帰社員にも活躍してもらえるのかもしれませんね。
人手不足をチャンスに
――もうひとつお伺いしたいのは、産休・育休を取得する時のことです。
私たち「NPO法人マタハラNet」には、看護師さんの相談がたくさん来ます。看護の現場は、慢性的な人員不足で、産休・育休で休むのを許したくないという状況です。休むだけでなく、シフトが不安定になる、それも許容できないと。
人手不足という点では、サイボウズさんと同じですが、人が抜ける時の対応がまるで違います。人が抜けてしまう時のサイボウズさんの反応をもう少しお聞かせください。
中根 つい2週間前に、非常に優秀な女性が休みに入りました。正直に言うと、仕事の負担がかなり大きくなり、現場はきついです。
だからこそ職場では、大変になるけどみんな頑張ろう、これをきっかけに業務を棚卸し、不要なものを削り、標準化、可視化、共有化を進めよう、後輩メンバーにとってはチャンスだと思っていこう、とコミュニケーションしています。
――負担をシェアできるよう、あくまでもポジティブな発想を止めないのですね。素晴らしいです。そのかたの仕事の穴は、どうやって埋めることになっていますか。
中根 派遣の方などにお願いする、新規採用メンバー、社内メンバーの役割分担変更等対応する予定です。いまは彼女の仕事は部署の中で分担しています。あとは仕事期日を調整しています。
制度を変える勇気、維持する努力
中根 会社の大きな変革の中では、私自身も疑問を感じたり、やってみたりした結果、さらに変えていったほうがいいなと思ったものもありました。たとえば、短時間勤務の女性の給料の上昇幅についてはある程度決まった枠の中で、となったのですが、やってみた結果やはり違和感を覚え、意見を言って変わりました。
新しい制度は試験運用するようにしています。評価制度をどうするか、在宅勤務のセキュリティをどうするか、さまざまな問題がありますが、それを一つひとつ解消していきました。
不満を抱えこまずに、問題があったら是非教えてください、制度の理想を説明します。でも意見を聞いて、確かにその通りだと思ったら変更も検討しますと丁寧にコミュニケーションを続けるように心がけています。多様化への対応というところでは、想定できていなかったことがいろいろとおきます。それにどう対応していくか、がとても大事だと思っています。
中根 本部長、副本部長は匿名で社内メンバーから評価される仕組みになっています。ここでもaction5+1が指標で、市場価値や信頼度で同様に評価されています。
渡辺 評価結果をオープンにする上司もいますね。
中根 合宿があり、その評価を受けて自分の目標を決めるようになっています。
――オープンかつ公明正大を心がけていらっしゃるのが良くわかりました。今回のお話をお伺いして、離職率28%の克服という、非常に強い危機意識と必要性があって生じた制度だということがわかりました。明確な意識があるからこそ、制度の維持にも力を尽くされているし、制度のブラッシュアップにも余念がない。
制度を変えて実際に業績が伸びていらっしゃるのが素晴らしいですね。マタハラNetとしてもとても嬉しく思いますし、頼もしく思います。ありがとうございました。
マタハラは、制度だけの問題ではなく、上司の理解のなさにこそ発端があると思います。中根さんの姿をお伝えできたことは、マタハラ対策を紹介する第一回目の記事にもっともふさわしいものになったのではないでしょうか。
ご高覧いただきありがとうございました。
サイボウズ株式会社様情報
(このたび、青野社長個人より、マタハラNetにスタートアップ資金としてのご寄附をいただきました。誠にありがとうございました。心からの御礼を申し上げ、今後のマタハラNetの飛躍のため、大切に使わせていただきます。この場を借りてお礼申し上げます。)