<寄稿 竹信三恵子氏>マタハラは「他人ごと」ではない
「マタハラなんて、いまどき、そんなことがそんなにあるはずない」。大学の授業で、パワハラやセクハラなどとともにマタニティーハラスメントについてふれたとき、女子学生が書いて提出した授業へのコメントの中に、こんな言葉がさらりと書かれてあった。
この授業では、マタハラの実態についてきちんと解説する余裕がなく、「職場での妊産婦への嫌がらせとしてマタハラも問題になっている」と話しただけだった。だから、こうした反応もしかたない、とも言えるが、同時に、職場での妊産婦の実態について、この社会ではまったく共有されていないのだということに気づかされ、愕然としたのも事実だ。
マタハラという言葉ができる以前から、私たちの世代では職場で母親社員が厳しい立場に立たされることは常識だった。私自身、妊娠と同時に、勤め先だった大手新聞社で、さまざまな不快が思いをさせられた体験がある。
妊娠したと上司に告げたとたん、内定していた人事が取り消され、独身の後輩女性にそのポストが回ってしまった。大きなお腹で職場を歩いていたら「そんなお腹で歩かれるとこちらがヒヤヒヤして迷惑なんだ!」とよく知りもしない男性社員にいきなり言われた。廊下で先輩の同僚から「子どもができるところまで頑張ったんだから、もうそろそろいいんじゃないの」と親切そうに言われたこと。どれもこれもが、職場は母親が来るところではない、というメッセージだ。
そんなこと昔の話でしょ、と言われそうではある。私もそうであってほしいと思っていた。だが、連合の2013年の調査では、4人に1人がマタハラ被害にあっている。にもかかわらず、若い女性からも「そんなこといまどきあるはずがない」と受け止められていることに、この問題の深刻さがある。
理由は、マタハラが、他の性的被害と同様に、人には言いにくいテーマだということがある。性にまつわることは人にはなかなか言えない。しかも、お腹の子どもを否定されたような気持ちになり、なかったことにしたいという気持ちも働く。さらに、妊娠という微妙なときに、腹を立てたり争ったりして胎内の子どもに影響が出ては、という自主規制も働く。だから、マタハラは水面下に潜ってしまう。
始末が悪いことに、子どものいない女性は、子どもがいないことによるハラスメントをしばしば受けている。だから、「子持ち女性はいい思いをしている」という怒りを抱きがちで、女性が力を合わせて跳ね返すことを阻まれている。以前、女性同士で話し合ったとき、子どもがいる女性が「女は子どもがいるからまともに働けないと言われる」とぐちった。すると、子どものいない女性が「こちらは子どももいない女は一人前ではないと言われているのよ」と言い返し、どっちへ行ってもダメなんだ、と大笑いになった。
つまり、日本の職場の「標準労働者像」は、「子どもがいない働く機械」なのだ。ここに合わない働き手は男性も含めて排除される。それがマタハラの背景にある。同時に、「女性は子どもを生むべきなのに働く機械になっている」と二重の非難も浴びせられる。昔、ギリシャで、旅人と捕まえてはベッドに縛り付け、ベッドより手足が長いと切り落とし、短いと無理やり引き伸ばして拷問するプロクルステスという盗賊がいたという。日本の労務管理はまさにそれだ。人間という存在をあるがままに受け止め、それに働き方を寄り添わせるという、ごく当然の労務管理が欠けているのだ。
実は、ほとんどの働き手は、そのようなベッドには合わない。ところが、そうした労務管理を疑うことを教えられていないため、互いに「ベッドに合わない」同僚たちを非難しあい、働き手はバラバラに分断される。
マタハラはその一例であり、しかももっとも害の大きい例だ。なぜなら、マタハラにあった女性は、時として出産する我が身を呪い、子育てに喜びをもてなくなる。また、マタハラを招いた妊娠に関与しているのに、ハラスメント免れている夫に対して怒りがわき、夫婦仲は最悪になる。加えて、職場が嫌いになり、復帰後の生産性も落ちる。復帰できればまだましだが、マタハラによって解雇されれば次は貧困だ。男性の雇用が不安定化し、賃金が下がっている今、配偶者である女性のそうした事態は男性にとっても貧困への道を意味する。
次世代にも男性にも社会の貧困の増大にも、これほどの悪影響をもたらすものが、これまで社会から十分な指弾も受けずに来たことこそ異様なのだということ、そうした事態を招くプロクルステスの労務管理を転換し、「子供やケアのある働き手=標準労働者」に転換していく必要があることを、共有していく必要がある。
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私は今まさにその状況です。
妊娠を上司に報告したところ、産休に入る1ヶ月程前に突然、育児休暇明けにきちんと復職できるのか?本当に正社員としてまた今まで通り働けるのか?パートとして復帰することもできる。と言われました。そのときは正社員として復帰したいとはっきり伝えました。
現在は出産して一年間の育児休暇を取得しています。しかし上司からまた同じことを言われています。その上、保育園に入れなかった場合、子供が一歳半になるまでは法律上育児休暇を延長することができるのに、来年度4月から復職できなければ辞めてもらいたいという主旨の話もされました。国で改善できないことは会社でもどうしようもないよねというような無責任なことまで言われました。
就職難の中で新卒で入社し、この会社で一生働きたいと考えていたのて、このような状況が非常に悔しく、悲しくてたまりません。
匿名さま
マタハラNetです。
お辛い心境の中、このようなコメントをいただけたその勇気に、心から感謝致します。
もしよろしければ、一度こちらよりメールください。
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いつでもお待ちしております。
妊娠出産したら、会社から切られた、辞めろと言われた、暴言はかれた。というだけじゃなく、
妊娠したら、育児休暇なんてとれっこないし、辞めざるを得ないが、そうなると転職は厳しく生活苦しくなるから・・・という思いで、そもそも
「出産を諦めた」という人も広い意味で「マタハラ」を受けた、ということになる気がします。
既婚者だけじゃなく。
子がいない女性(男性)へのセクハラ、マタハラ両方なくなってほしいですね。
私の子供達が行っている学校や保育園はクラスの半分以上が一人っ子です。
すごいなって思っていましたが、案の定数人のママたちからは「二人目を妊娠すると会社を続けられない」との理由。しかも実際に二人目を妊娠して会社を辞めさせられたママもいるし、公務員のママは人事異動をさせられ厳しい状況に。
結婚も出産もしていない30前半の女性社員ですら、マタハラの問題には無関心。自分には関係ないとの態度。非常に残念であり、今の会社、社会に対して憤りを感じます。
パワハラも、セクハラも、マタハラも、モラハラも本当になくなり人としてお互いを尊重し思いやりを持って協力して全ての物事に取り組める時代に早くなれるように祈ります。